まあ、この人もこんなところで暮らしているくらいだからな。

 少々のものは見慣れているんだろう。

 そう思いながら真生が、
「高坂さん。お手洗い行ってきます」
と言うと、高坂は、

「別に、いちいち断らなくていいぞ」
と軍から来たという書類を見たまま言ったが、顔を上げ、ああ、と思い出したように付け足した。

「女子便所は中から手が出て引っ張るそうだから気をつけろ。
 便器に引っ張り込まれそうになった女に触るの厭だから」

「……触らなきゃいいんじゃないですかね?」
と言って、真生は霊よりも厄介な男のいる部屋を出た。