かつて、この場所にあった病院は、今は小さな林の向こうに移転し、ヘリポートも有した近代的な建物になっていて、救急救命センターもある。

 同じ敷地内にあるのは、病院とこの学園の理事長が同じだからだ。

 なので、学園には看護科もあるのだが、看護科の建物は、病院の方に併設されていた。

 夏海と兵士の霊が行ってしまったあと、真生は社会科準備室に行こうとしたが、なんとなく図書室の方を振り返る。

 小学五年生のとき、真生は図書委員だった。

 放課後、廊下の突き当たりにある図書室に鍵をかけた真生は、自分の借りた本を胸に抱いて、廊下に出た。

 ふと、背後に何かの気配を感じて振り返ったが、そこには誰もおらず、射し込んだ夕陽が図書室の扉を照らしているだけだった。

 だが、その扉の前に何か赤いものがあるように見え、本を抱いたまま、それに近づいた。

 自分の白い上靴の先。

 床に赤いしずくが二、三滴落ちていた。

 血のように見えるそれは、まだ濡れていた。

 まるで今、落ちたかのように。

 だが、そこには誰も居なかった。

 図書室が誰かを呑み込んだのだと、そのとき真生は思った。