「そう。真生さん、よろしく」
と言ったあとで、渕上は高坂を見た。

　高坂は黙って頷く。

　なんなんだ、と思いながら、渕上が去ったあと、真生は高坂を見上げて訊いた。

「今、私を見て、戻ってきたって、渕上師……婦長がおっしゃってましたが？」

「誰か、俺の愛人と間違えたんだろう」
と高坂は素っ気なくそう言ってきた。

「この病院の人間でも、数人しか知らない女だ。

　その愛人がいきなり消えたから、また殺されたんじゃないかと心配していたようだ」

「え？　また？」

「俺の愛人は次々消えるからな」
と高坂は物騒なことを軽く言う。

「婦長は派閥的には俺の味方だから。
　消えたと思っていた俺の愛人が現れたから、安心したのさ」

　そう言いながら高坂が病院に足を踏み入れると、薄暗いロビーで、何故か昭子がひとり、こちらを振り返るようにして立っていた。