前院長の隠し子だからとか、院長代理だからとかいうより、軍から派遣されてきた人間だからかもしれないと思った。

 なんせ、このご時世だ。

 今は戦争はやってはいないようだが、今にも始まりそうな緊迫した空気がここには常に漂っている。

 こちらに向かい、駆けてきたのは、瞳の大きな愛らしい若い娘だった。

 小柄な彼女は、ミニのナース服の方が似合いそうな雰囲気だったが、そんな時代でもない。

 彼女は、ちらと真生を見、
「高坂さん、この方、どなたですか?」
と訊いてくる。

 口調は丁寧だったが、その目は、はっきり、この女、誰? と語っていた。

 なにやら覚えのある視線だ、と真生は思う。

 長年、斗真の側に居ると、こんな視線にさらされること、しばしばだからだ。