「その辺に通行人が居るのと変わりない。

 生きてる人間の中に居るより、死人に囲まれてる方が俺は落ち着く。

 あいつら、死ねとか言うけど、本当に殺しには来ないからな」

 まあ、そうか、と真生は思った。

 祟り殺されるなんてこと、現実はにはない。

 心を病むことくらいはありそうだが、ここに平気で住んでいるような男なら、霊に呪われても、なにも感じないことだろう。

 そういえば、あの入り口扉の朱色は魔除けの硫化水銀のようだったが、全然、効果はなさそうだ。

 外よりは危険な霊が少ない気はするが。

 だが、高坂にも霊が見えると言われ、真生は安堵していた。

 自分と同じものが見える人間と居るのはいい。

 霊を追って視線をさまよわせないよう気を使わなくていいからだ。

 斗真と居るときも、そういう気楽さはあるのだが……。

 真生は高坂が持って来てくれたポットから、自分で紅茶を注いだ。

 芳醇な香りが部屋に広がる。

 上質なダージリンのようだ。

 目を閉じ、その香りを嗅いでいると、部屋の外はカビ臭い廃病院だということを忘れそうになる。