飲むか? とまだ淹れたてだったらしい紅茶のポットを高坂は、こちらに向けてくれる。

「器は自分で出せ」

 そう言われ、真生は棚を見た。

 落ち着いたデザインのカップがガラス戸棚に並んでいる。

「あのー、なんでこんなにいろいろ凝こっているのに、住んでるのはここなんですか?」

 この廃病院の中で、ここだけが異質だ。

「ここが一番落ち着くからだ」
と言う高坂に、

「ここ、霊がいっぱい出てますが、見えてないんですか?」
と問うと、いや、見えている、と言う。

「お前の後ろにも」

 えっ、と真生は振り返った。

 そういえば、確かに窓の外を歩く男の霊がいる。

 かつての入院患者が庭を散歩しているようだった。

「全然動じないから、見えてないのかと思ってましたよ」
と言ったが、高坂は、

「日常の光景だ。
 驚くほどのことでもない」
と言う。