「未完……ですか?」

 そう訝(いぶか)しげに言った真生を高坂が振り返る。

「私、この曲弾いてますよ、最後まで」
と言うと、真生は、そのまま目を閉じ、曲を聴いた。

 そうか。
 こういうイメージだったんだな、と高坂に気づかれない程度に軽く指を動かしながら、頭の中で弾いてみる。

 だが、いきなり、ぷつっ、と途中で、その曲は切れた。

 そのまま同じところを繰り返し始める。

 あれっ、と真生が声を上げると、高く脚を組んだまま高坂は、蓄音機で回りそこねているレコードを見て言った。

「先の大戦で破損したんだ。
 幾つか傷が入ってる」

「じゃあ、どのみち、この先は聴けないんですね」