「おい、どこに行っていた」

 ふいに聞こえた声に、真生は、どきりとしていた。

 斗真のそれと似ていて、少し違う。

 その声の放つ、張り詰めた響きは、あの曲の最も盛り上がる部分を奏でるときのパイプオルガンの音を思わせる。

 真生は先程、練習を終え、礼拝堂を出たはずだった。

 だが、いつの間にか、アンティークな調度品のそろった部屋の扉の取っ手をつかんでいたようだ。

 あの朱色の鉄の扉だ。

 黒いスーツを着た高坂が蓄音機の前の赤い布張りの椅子に座っている。

 軍服も似合っていたが、上質な黒のスーツと仕立ての良さそうな白いシャツが高坂の整った白い顔によく映えていた。

「この曲……」
と真生は呟く。

 蓄音機から流れでる重厚感のある曲に覚えがあったからだ。

 そんな真生の顔を、まるでなにかを見極めようとするように、高坂は見つめている。

「……お前は、さっき、消えた真生か」

 そう高坂は訊いてきた。