窓からの風に、タッセルの外れた古びたカーテンが舞い上がり、鼻をくすぐられて、くしゃみが出る。

「……お前、当直だろうが」

 そんな真生を見ながら、斗真は言った。

 あー、そうだった、そうだった、と言いながら、真生は立ち上がる。

「次は社会か。
 地理はまた運ぶものがあるかもね。

 ありがと、斗真」

 そう言いながら、枕にしていた本を手に立ち上がる。

 行きかけて戻り、もう一度、訊いてみた。

「だからなに渋い顔してんの?」

「……渋い顔などしていない」
と渋い顔で言ってくる斗真に見送られ、真生は本を戻し、廊下に出た。

 すると、ちょうど、クラスメイトの夏海(なつみ)が包帯で足を巻かれた兵士とともに、こちらに向かい、歩いてくるところだった。

 旧日本陸軍の軍服を着た男は、埃まみれの身体で足を引きずり、いつも、この廊下を行ったり来たりしている。