「素朴なんだが、それ故に切ない感じが伝わってくるというか。

 戦前に作られた曲らしいが、迫り来る戦争の影とか、未来が見通せない絶望感とか」


 そんなものがひしひしと伝わってくる、と坂部は言った。

「そうですね。
 でも、私は……」
と言いかけ、真生はやめた。

 今にも裂けそうな古い楽譜を置き、弾き始める。

 側に立つ教師は目を閉じ、聴いているようだった。

 どこか物悲しいその旋律には、坂部が言う通り、自分が産まれて今まで、まだ感じたことのない切迫感のようなものがつまっている。

 弾きながら、視線を上へ向けた真生の目に、それが入った。

 パイプオルガンのすぐ横の壁にあるステンドグラス。

 初めてこの曲を弾いたとき、マリア像や百合が描かれた古いステンドグラスの向こうに、あれが見えた。