突然、礼拝堂に現れた高坂そっくりな男は、弓削利樹と名乗った。
斗真の従兄らしいが、ずっとボストンに居たらしく、日本は久しぶりだと言う。
「医者になる前は、よく日本に帰ってきてたんで、ちっちゃな斗真を遊んでやってたんだ。
遊園地で何回もゴーカートに乗るというから、捨ててくぞ、と言ったら泣いていた」
「……やめてあげてください」
そんなしょうもない話をしながら、二人で礼拝堂の扉を開けたが、もちろん、もう過去に飛ぶことはない。
利樹と話しながら、ゆっくりと閉まる扉を真生は振り返る。
光降り注ぐ黄昏どきの礼拝堂の中に、もう高坂の幻は見えなかった――。
完