「ああ、ちょっと名前が変わってるか。
 従弟がこの学園に居るんだが」
と言うと、津田秋彦は、なるほど、と笑ったあとで、

「……なるほど、卑怯な男だ」
と何故か斗真を罵った。

 そのとき、ちょうど、その曲が聞こえてきた。

 礼拝堂の方からのようだ。

 あの戦闘機を見たときよりも、苦しくなるような曲が聴こえてくる。

 だが、その曲は自分が思っていたような展開を見せなかった。

 突然の転調のあと、明るく静かな曲に変わる。

「間に合ってよかったね。
 あのパイプオルガンでこの曲聴けるの、最後らしいよ。

 じゃ」
と言って津田秋彦は消えたようだった。

 古い礼拝堂を見ながら、利樹はそちらに向かい、歩いていく。

 扉に鍵はかかっておらず、今にも外れそうな取っ手をつかんで開けた。

 曲は既に終わっていたが、誰も居ない客席に向かい、ひとりの少女が深く頭を下げていた。

 自分が手を叩くと、ビクリと顔を上げる。