地表近くに落ちた大きな夕陽がまんべんなく街を赤く染めていた。

 真生は許可を貰い、ひとり、あの礼拝堂に居た。

 パイプオルガンの椅子を引き、座る。

 パイプオルガンは変わらないが、椅子はあの頃とは変わっていた。

 静かに真生はあの曲を奏で始める。

 結局、あのノートは消えた。

 何処から来て、何処に行くのかわからないあのノートは。

 でも、何処から始まり、何処で終わるのかわからない私の恋は、今もこの胸に残っている。

 私を見つめるあなたを見て、私はあなたに恋をした。

 そして、あなたに恋をした私が過去へと飛んで、あなたは私に恋をした。

 この恋を始めたのがどちらなのかわからなくとも。

 私はただ、高坂さんが好きだった――。

 最後の一音を弾き、真生は目を閉じた。