っていうか、いつの間にか、その女教師も丸め込んで、自分のファンにしてるし、と思いながら夕陽を浴びたその白い綺麗な顔を眺めていると、彼は言った。

「俺は病院に戻る。
 もう保健室は閉めるから、帰れ」

「ほんっと優しくないですね、秋彦先生」
と言ったあとで、真生は、

「今日で最後なんです」
と言う。

 ん? と秋彦はこちらを見た。

「パイプオルガン、そろそろ部品の交換が必要らしくて。
 あれ弾けるの、今日で最後なんです」

 そうか、と秋彦は言った。

 じゃあ、と戸口で振り返り笑うと、
「ありがとう」
 ふいに秋彦は、そんなことを言ってくる。

「なんですか、それ。気持ち悪い」
と苦笑したのだが、彼はいつもとは違う顔で、

「お前が俺を解放してくれた」
 そう言った。

 なにからというのは、秋彦は言わなかった。

 言えないのだろう。
 母親に申し訳なくて。

 だが、言えないうちは、まだ囚われているのだと思う。
 母親からの呪縛に。