気がついたら、真生は礼拝堂の扉を開けて立っていた。

 すぐ側に、それ自体が礼拝堂であるかのようにも見える巨大なパイプオルガンがある。

 その横の壁には、ステンドグラスがはめ込まれ、そこから夕暮れの光が差し込んでいた。

 真生はその場に立ちすくみ、さっきまで高坂につかまれていたおのれの腕を見つめる。

 確かにそこに残る高坂の指の感触に、自分もそっとその部分に触れてみようかと思い、やめた。

 高坂に触れられた感覚が消えそうな気がしたからだ。

 そんなことを怖がる自分を不思議に感じたとき、
「おっ、如月、なにやってんだ」
と後ろから声がした。

 先程、自分が開けたままだった礼拝堂の入り口から、音楽の教師、坂部(さかべ)が入ってきた。

 真生の親世代よりは少し下で、いつも子供の写真を見せてくる子煩悩な男だ。