外にあったので、越冬できないだろうと思いながら、眺めていたのだが。

「高坂の部屋の前に生えてたやつ、建物は燃えたのに少し株が残ってたんだ。
 あれを爆発的に増やしてみた」

「……なんで、今、くれるんですか」

「さっき、やったら、人前で泣いてただろ?」
と八咫は言う。

 真生は花束に顔を埋めた。

 明け方、高坂の部屋の窓を開けたとき、霧のように湿った空気とともに、この花の香りが漂ってきていた。

 一気に蘇ってきたのは、百合子の香水の匂い。

 あの風呂場のシャンプーの匂い。

 石けんの匂い。

 病院の消毒臭い匂い。

 焼け落ちたばかりの煤けた廃病院の匂い。

 高坂と歩いた夜の町の匂い。

 食堂の匂い。

 奢ってもらったキャラメルの匂い。

 きらびやかな百貨店の、華やかだが、雑多なものの混ざった匂い。

 あの時代の匂いだった。

 匂いは強く記憶と結びついている――。