「この香水と同じ香りの香水をよく母はつけてましたよ。

 懐かしそうにあなたのおばあさまのことも語っていました」

「そうなんですか? 
 どんな人だったって言ってました?」

 品の良い老婦人は、微笑んだまま、なにも言わなかった。

 ……あの毒舌で何度も語ってくれていたわけだ。

 それはそれで有り難い話……なのだろうかな、と真生は微妙な笑顔を作る。

「これ、母が大事にしていたものです」

 古い写真だった。

 大勢で写っているので、はっきり顔はわからないが、百合子や昭子、それに、津田秋彦。

 そして、高坂も居るようだった。

 変色したモノクロの写真が真生の頭の中でだけ、鮮やかに色づいて見えた。

「八咫さん、なんで居ないんです」

「私は、この病院の人間じゃなかっただろうが」
と八咫が言う。

 そういえば、そうだった。

 いつも居たからな、と苦笑する。