「さっき、ここに飛んだとき、自分は何百年も眠っていたんだと思った。

 あのとき、何故笑ったのか自分でもわからなかったんだが、今ならわかるよ」

 秋彦は本当は解放されたかったのだろう。

 母親の呪縛から。

 だが、強い母への想いがそれを拒んでいた。

「ここは何百年も経った世界じゃないですよ」
と鍵盤に視線を戻しながら言ったが、秋彦は笑ったようだった。

「……同じことだよ」
と。

 ステンドグラスが震えても、もうその先になにも見えなかった。

「如月ーっ。
 曲が違うじゃないかーっ」

 案の定、坂部が扉を跳ね開け、怒鳴り込んできた。

 真生は秋彦と目を合わせ、少し笑った。