真生は秋彦を振り向く。

「先生、あなたはもう元の時代へは戻れません。

 もうなにもあなたの手には入らない。

 あなたが欲するものも、あなたが縛られていたものもすべて。

 津田秋彦は今、死んだんです。

 津田先生、

 ――あなたはもう自由です」

 秋彦は黙って夕陽を背に立つ真生を見ていたが。

 やがて、笑い出す。

 その場に膝をつき、すがるように真生の両腕を握った。

 なにかの想いを込めたような力強さがその手にはあった。

 一人殺して、真生にはわかった。

 自分がもう一人殺すことは出来ないと。

 だが、津田秋彦を殺したのは自分のようだった。

 誰もそれをしていないのに、彼はその存在を消しているから。

 ならば、こうするしかないと思った。