消えゆく波動を感じているのかいないのか。

 秋彦は、ふらつきながらも立ち上がり、側まで来た。

 彼はなにかが起こりつつあるのを察しているようだったが、真生の手を止めることはせず、その手許を見つめていた。

 ああ。
 遠ざかっていく、すべてが。

 あの張り詰めた空気も。
 華やかな街並も。

 あの部屋の、高坂さんの匂いも。

 でも、そう。

 すべて、もう終わっている世界のことだったのに。

 何故、今、こんなに……。

 最後の一音が長く礼拝堂に響き、厚いステンドグラスを振動させる。

 天に聳(そび)えるようなパイプの中の空気が抜け切り、やがて、その振動が止まった。

 ステンドグラスの向こうには、ただ夕焼け空があり、飛行機雲さえ、残ってはいないようだった。

 終わらない世界が収束し、まだ自分の周りに漂っていたように感じていたものすべてが、その一音とともに、消えていた。