だが、廃墟の蜃気楼のようなこの世界を現実だと感じさせるものがあった。

 この赤い切り傷と、高坂の指だ。

 あのときと同じだ、と真生は思った。

 この肌に触れられて初めて、それが逃避出来る夢の世界のことではないと実感する――。

 そんなことを思いながら、高坂に焼け落ちた廊下から引きずり出される。

 高坂が廃病院の大きな玄関扉を開けたとき、またあの揺らぎと旋律を感じた。

 あ、と思った瞬間、真生の腕から高坂の指に触れられている感触が消えていた。