だが、真生はそこで少し表情を曇らせ言ってくる。

「先生、先生は高坂さんの看病をしたせいで、お母様が亡くなられたと思ってるのかもしれませんが……」

 自分に少しの同情を見せたようだった。

 だが、秋彦はそんな真生を鼻で笑う。

「お前の言いたいことはわかっている。

 お袋が死んだのは、自分が高坂に病原体を注入しようとして失敗したからだと言いたいんだろ?

 だから、高坂を恨むなと。

 だが、そんなことは知っている」

 俺も医者だからな、と秋彦は言った。

 最初の患者から高坂の発症までの時間の空き方、その病状と母親の死亡した日付を見れば、想像がつく。

「だが、そこまでさせた高坂とその母親が悪い」

 そう嘲笑(あざわら)っても、真生は一度自分に見せた憐憫(れんびん)の情を消さなかった。

「……先生はずっとそうして、お母様の呪縛に縛られてきたんですね」

 でも、大丈夫、と真生はそこでようやく微笑んだ。

「先生は、今から私が殺してあげます」

 ステンドグラスから差し込む光がオルガンの巨大なパイプに反射し、真生を照らしていた。

 美しい女だ。
 そして、不思議に甘美な響きだ。