それにしても、自分はどれくらい寝ていたのだろう。

 夜だったはずなのに。

 それに、建物も朽ちている。

 子供の頃聞いたおとぎ話の中の登場人物のように、自分は何百年も眠っていたとでもいうのだろうか。

 そう思い、笑ってしまう。

 何故、自分が笑ったのか、そのときはわからなかった。

 ふいに少女が曲の途中で手を止め、こちらを見た。

「気がつきました?」

「……お前は?」

「私は真生。如月真生」

 少女は立ち上がり、そう名乗る。

 秋彦は笑った。

「お前が名前だけ聞く高坂の愛人か」