病院を出た真生は、暗い林の中の道を通り、学校に戻る。
かつて病院があった敷地内の方が飛びやすいからだ。
灯りのないその建物を見上げると、ところどころに白くぼんやりした人影が見える。
霊のようだ。
人間が見てなくても出てるんだな、と思った。
なんとなく、人に見せるために出てるのかと思っていた。
誰も居なくなると、消えて、くつろいでいる霊を想像し、ちょっと笑ってしまう。
だが、あの多江のものらしき姿がすうっと三階の廊下を通っていくのが見えて、目をそらした。
礼拝堂に行き、鍵を開ける。
月夜に見上げるパイプオルガンは、奏でなくとも荘厳な響きを感じさせるような美しさがあった。
電源を入れると、吹子(ふいご)に空気の入る音がする。
しばらく待って、ひとつ音を出してみたが、礼拝堂全体を震わせるようなその音は、深夜には迷惑そうだった。


