だが、高坂は、そうか、とだけ言った。

 まさか、未来から来ました、と言って、そうか、と返されるとは思わなかったな、と思っていると、

「まあいい。ちょっと来い」
と言って、高坂は半袖の制服から覗く白い真生の腕をつかんできた。

 そこには、鋭いもので切られたような細く短い赤い線がある。

 ちょうど、そこに触れるようにつかんできた高坂の指の感触に、どきりとしながらも、その感情を表に出さないよう、真生は努めた。

 それにしても、一体、自分の身になにが起こっているのだろう。

 もしかしたら、すべては夢なのか。

 夢……。

 何処から? とまた思う。

 本当は、まだ図書室で揺れるカーテンにくすぐられながら、本の匂いを嗅ぎつつ、突っ伏して寝ているのだろうか。

 それとも、あの廃墟のような礼拝堂で、パイプオルガンを弾きながら、心を遠くに飛ばし、幻を見ているのだろうか。