いつか、あなたに恋をする――

 逃げたいと思ってしまった瞬間、飛んでいた。

「高坂さん」

 女の声がした。

 明るい場所から急に出た夜の世界。

 虫の鳴く声と目が慣れない闇に気を取られている間に、すぐ側に女が現れていた。

 女はキスしてくるフリをしたが、ナイフを隠し持っているのに気づいていた。

 逃げようかどうしようか、一瞬、迷う。

 だが、斗真はおとなしく女に刺された。

 それで死ぬとわかっていて。

 初めての痛みに崩れ落ちる。

 夜露に湿った草の上で腹を抑え、丸くなる。

 こちらの世界に飛んで人を斬ることはあっても、斬られたことはなかった。

 痛いな、すまん、と今更ながらに、斬った人間に対して思う。

 不思議に苦しがる身体と魂は切り離されていた。