廃病院で自分に襲いかかってきた男が言っていた。

『お前、高坂の愛人じゃないか』と――。

「あの、私、以前、ここであなたの愛人の方と間違えられた気がするんですが」

 俺の愛人? と高坂は考える風な顔をする。

「……どれだろうな」

 誰じゃなくて、どれ、か。

 ロクでもない男のようだ。

 斗真と同じ顔なのにな……。

 それにしても、本当によく似ている。

 もし、ここが過去の世界だとするならば、彼は斗真の先祖なのかもしれないなと、ちょっと思った。

「まあ、とりあえず、その手を下ろせ」
と言われて、ようやく気づいた。

 自分が命じられてもいないのに、両手をあげたままだったことに。

 おそらく、銃を見ての条件反射だ。