いつか、あなたに恋をする――

 いや、考えてみれば、自分が生まれる前に死んでいたあの人と出会えたこと自体が奇跡だったのだから。

 これ以上のことを望むのは、はなから無理なことなのだろう。

 落ち着こう、と真生はおのれの両頬を軽く叩いた。

 高坂さんにはもう会えなくとも、私にはまだ、あの人のためにやらねばならないことがある。

 そう考えることで、真生は崩れ落ちそうになる自分の心をなんとか支えた。

 時間も空間も離れていても、高坂のために、まだできることがあるという、その事実だけで、真生はかろうじて、そこに立っていることができた。

 気持ちを切り替えるために、ひとつ息を吸った真生は、

 今が夜で、そこが今まで飛んだことのない音楽室の前の廊下だと気づく。

 何故、ここに? と思う間もなく、その旋律が耳に入ってきた。

 美しい音色だ。

 これに惹かれて飛んだんだな、と気づく。

 音楽室の扉は開いていた。

 真生はそこから、そっと中に入り、聴いていた。

 音楽室の黒いグラウンドピアノを弾いているのは斗真だった。