いつか、あなたに恋をする――

 自分と目を合わせた女は、大抵、挙動不審になるか、赤くなって俯くか、くらいのものだったのに。

「……もう一度、聴くか」

 気の利いたことのひとつも言えず、莫迦みたいにそう繰り返す自分に、彼女は、
「そうですね」
と微笑んだ。

 安堵して立ち上がりながら、蓄音機の許に行く。

 再び、レコードが曲を奏で始めた。

 戦争が始まる前の、落ち着かないこの張り詰めた空気を震わせるかのように。

 彼女は外を見て言った。

「綺麗ですね、ガス燈の灯り。

 人が人の手でつけて歩くから、あんなに暖かい光なんでしょうかね」

 ……そうだな、と呟き、彼女とともに、それを見る。

 今までそんな風に感じたことはなかったな、と思いながら、流れる曲に耳を傾け、霧で霞んだ町に広がるガス燈の灯りに目を向けた。