男が出て行ったあと、婦長がこらちを見、言ってきた。
「私も戻らないといけないので。
真生さん、ここから出ないでくださいよ。
なにか欲しいものはありますか?」
……いえ、と言うと、婦長は困った顔をし、
「いつものあなたは、少々おとなしめの方が、女性らしくていいんじゃないかという感じですが。
実際、そうなると、あなたらしくなくて落ち着かないですね」
偉い言われようだな、普段の私とやら、どうなんだ、と思っているうちに、婦長は、じゃあ、あとで、と言って、忙しげに出て行ってしまった。
なんなんだろうな。
まあ、今はなにも考えたくないけど。
そんなことを思いながら、真生は寝室のドアを開ける。
冷たいノブの手触りにここが現実だと強く感じる。
ドアを開けたら、元の世界が広がっていて欲しいような、欲しくないような。
そう思うのは、人を殺した感触を覚えたままで、元の生活に戻れる自信がないからか。


