あのとき――
自分を襲った男を殺し、あの曲を口ずさみながら、死体を引きずっていたとき。
ふいに真生の視界が歪んだ。
再び、時空の揺らぎに吞み込まれたようだった。
自分はまだ死体を引きずっているつもりだったが、手にはなにもなく。
廃病院の廊下で、一人、前屈みになっているだけだった。
……間抜けが過ぎるな、と思ったとき、
「真生」
と誰かが自分の名を呼んだ。
どきりとする。
その声が斗真の声にそっくりだったからだ。
此処、廃病院の廊下のままだが、実は現代に戻ってるとか?
と思い、振り向いた真生の前に、白い海軍の制服を着た、弓削斗真によく似た男が立っていた。
「どうした、真生。
大丈夫か?」
と言いながら、男はこちらに駆け寄ってくる。
……誰?
そして、死体もないのに、なにが大丈夫か、なんだろうな?
などと思いながら、真生は、ぼんやり男を見上げていた。


