廊下を這いずる男を微妙に避けながら、真生はそのドアをノックした。辛うじて残っているドアだ。
返事はない。
だから、ドアを開けた。
「私よ」
と言いながら。
煙草を手にしたまま、そこにあった古いトランクに腰掛けていた女が身構える。
その足許に真生は金を投げた。
「これで逃げたら? 話を聞かせて」
あら、ありがとう、と女は赤い唇で笑う。
外の茂みから高坂をうかがっていたのはこの女だった。
元高坂の愛人だったという行方不明の女だ。
自分も高坂の愛人を名乗っているという言い方をし、探りを入れたら、すぐにそう認めたのだ。


