割れた窓の向こうに、細い月が見えていた。

 まだそんなに遅い時間でもなさそうなのに、車が走る音も聞こえない。

 静かな夜だ。

 男は満足そうに真生を見下ろし、言ってきた。

「軍が高坂を呼び出してるこの隙に家捜ししようと思って来たんだが」

 ……軍?

「ちょうどいい。
 お前と引きかえに高坂に例の病原体を持って来させよう」

 かなりまずい状況になっている気がする。

 そう思いながら、真生は言葉を絞り出した。

「……病原体って、なに?」

「すっとぼけるなよ。
 お前もあれが目当てで高坂に近づいたんじゃないのか?

 消えたあいつの愛人たちはみんなそうだったんだろ?」

 だから、高坂か八咫(やた)に殺されたんだ、と言う。

 そんな話を聞きながら、夢であって欲しいな、と真生は思っていた。

 どこから夢にしたら辻褄(つじつま)が合うだろう。

 ああそう。

 図書室で目を覚まして、斗真に会ったときから?

 いや、あの日、礼拝堂で戦闘機を見たあのときから――。