結局、しばらく飛べないまま、穏やかに数日が過ぎた。
真生は、高坂や百合子、果ては八咫の手伝いまでしながら、日々を過ごす。
今日は、百合子たちと一緒に、病院の裏で、患者の衣類を洗濯をしていた。
つい、あの曲を鼻歌で歌いそうになり、慌てて、やめた。
真生はもう気づいていた。
何故、自分がこの時代に何度も呼ばれるのかを。
哲治は、戦場で、あの曲のラストを変えようとした。
だが、自らは日本に帰れず、曲を書き直すことはできなかった。
しかし、哲治が戦地で作った切ない旋律はみなの耳に残り、生きて帰った者たちが、日本に持ち帰った。
曾祖父は、覚えた戦地の言葉を使うことはなかったが、あの歌だけは、孫や曾孫たちを膝に乗せ、時折、歌っていた。
それを覚えた自分が、偶然か、運命か。
今、あの学園に居て。
あの曲を、あのパイプオルガンで弾こうとしている。