「違うと思いますよ」
と真生は八咫を見つめて言った。

「あなたはいつか、今のあなたとは違うあなたになります」

 真っ直ぐに八咫を見てそう言うと、唐突に、八咫は真生の腕をつかみ、軽く唇に触れてきた。

「いや、だから、そういうのは勘弁なんですが」

「お前、本当は高坂の愛人なんかじゃないんだろう。

 高坂には愛人など居ないからな」

「でしょうね」
と真生は苦笑する。

 なにか軍からの役目があって、高坂の側にくる人間を、愛人と偽っているだけなのだろう。

 だから、あの愛人二号が高坂の愛人になれるわけもない。

「真生、私が最初に人を殺したのは軍人になる前だ」

 それはあまりしてよい告白だとは思えなかった。