そこで真生は回想をやめ、ふっと息を吐いた。
「いつの間にか私の手から死体は消えていましたが。
死体と血のついたマットは、おそらく、別々の時間の八咫さんが、おや、こんなところにも、とか言って、それぞれ片付けてくれたんでしょう」
意外と便利な人ですね、と八咫を見て言ってしまう。
八咫は渋い顔をしていた。
高坂が、
「なに、淡々と語ってるんだ」
と言ってくる。
「いや、淡々と語っているのは、感情を殺しているからですよ」
と真生は言った。
「一人殺してみてわかりましたよ。
私に二人目は殺せない」
一人殺して、そのまま走れる人間もいるだろうが、自分には無理だ。
そう思う真生を八咫が見ていた。
だが、私はおそらく、もう一人、殺さなければならない。
いや、この時間から見れば、すでに『殺している』人間がもう一人居る。
そう真生は思っていた。