口からもれるのは、あの曲だ。

 『終わりなき世界のレクイエム』

 曲に溢れる切迫感と切なさの中に、真生は救いを求めた。

 そのとき、ふっと頭に浮かんだのだ。

 よく似ているが、雰囲気の違う旋律が。

 それはいつも曾祖父が自分を膝に抱き、口ずさんでいたメロディだった。

 少し伴奏を変えただけで、それはしっくり曲に馴染む気がした。

 戦争が始まる前のような悲壮感を漂わせ、切迫した空気のまま終わっていたあのレクイエムが、後半を曾祖父の曲の通りに変えると、不思議に希望に満ちあふれてくる。

 おそらく、高坂の叔父、越智哲治は、戦地で曲のラストを書きかえようとしたのだ。

 彼は日本に帰ること叶わなかったが、彼の戦友たちが、その曲を覚え、持ち帰った。

 真生の曾祖父のように。

 戦地に行った哲治は恐らく、今の自分と同じに、初めて人を殺した。

 その恐怖から、希望ある未来にすがろうとして、曲を書きかえたのだろう。