「秋彦の母は、早くに死んでいる。
 俺を看病していて病気が移り、亡くなったのだと秋彦は思っている。

 院長になることは、母親の望みを叶えることだし、母親を死に追いやった俺への復讐にもなる。

 だから、あいつは院長の座に固執していたようだった」

 死んだ母親の望み、か。

 生きた人間ならともかく、死んだ人間の呪いは解けないかもしれないな、と真生は思う。

「では、その致死率の高い病気から、生還したのは、結局、あなたひとりなんですね」

 高坂がこちらを見た。

「高坂さんにしか抗体がないのに、軍以外にもその病原体を狙っている連中がいる。

 感染力は低いと聞きましたが、突然変異して、感染力が強い菌が出来上がってしまうかもしれないのに、危険なことをしますよね」
と真生が言うと、八咫が高坂を見る。

「お前、ベラベラ余計なことをしゃべるなよ」
と言ったので、

「いえ。
 私は最初から病原体がまだここにあることは知ってました」
と真生は言った。

「私が殺した男に聞いたので」
と。