「どうしてあの夫婦がすれ違ってしまったのかわからないが。

 まあ、女にストレートにやさしくすると言うのはなかなか難しいからな。

 なにかこう、気恥ずかしい感じがするから」
とこの時代の人間らしく、高坂までもが院長に同情するようなことを言っていた。

「しかし、あれが院長本人だとすると、おぞましいものとは、なんだったんだろうな?」

 あのときの院長の言葉を思い出したらしい八咫がそう訊いてくる。

 おぞましいものを見せてしまった、と顔の包帯を落とした院長は言っていた。

「もしかしたらですが。

 あれは、そこまでの芝居をしなければ得られなかった歪んだ夫婦愛に対しての言葉だったのかもしれませんね」

 最初になにかをかけ違ってしまった二人は、他人である、というフィルターをかけ合わなければ、素直になれなかったのだろう。

「そう考えれば、少し可愛らしい気もしますね」
と真生が言うと、高坂は、

「なにが可愛らしい。
 軍まで巻き込んで大騒ぎじゃないか。

 八咫、適当に報告書作っておけよ」
と言って、

「うちのは書くが、海軍のは知らん」
と言い捨てられていた。