「だが、昭子は儀式が成功したと思っている。

 彼女は、あれが秋彦だと思っているのか?」

「いえ。
 儀式が成功して院長の肉体が蘇ったと思っているとしても、中身が津田秋彦でないのは、わかっていると思いますよ」

 如何に冷え切った夫婦だったとしても、さすがにずっと一緒に居て、夫か愛人かわからないだなんて思えない。

「それでも、昭子さんの機嫌がいいのは、たぶん、ようやく、望みのものを手に入れたからです。

 昭子さんが本当に欲しかったのは、きっと、夫の愛情だったんですよ。

 若い愛人と遊んでいても」

 津田秋彦のフリをする院長は昭子さんにやさしい。

 昭子が望んだ通りの理想の夫となっていることだろう。

 では、院長が自分が再び殺されないために、昭子にやさしくしているのかと言うと、そうではない気もしている。

 院長は秋彦の仮面を被って初めて、素直に妻にやさしく出来たのではないだろうか。

 一度どこかでねじ曲がってしまった夫婦の関係は、こうでもしなければ、元の形には戻れなかったのかもしれない。