「何故なら、昭子さんのやった儀式は失敗しているからです。

 彼女は恐らく、どこからか集めてきた津田秋彦の髪を儀式に紛れ込ませ、その魂を死にかけている院長の器に引き込もうとした」

 真生はあのノートを握りしめて言う。

「魂を蘇らせるときに注意することがあるそうです。

 蘇らせる死体に他人の皮膚や髪などが付着しないこと。

 そちらも魂が身体に結びついていない場合、つまり、死んでる場合などですね。

 そっちの魂が入ったり混ざったりしてしまうことがあるそうです」

 その部分は、羊皮紙の本から院長が書き写しているのを覗き見ていたので知っている。

「ということは、昭子さんは津田秋彦は死んでいると思ってるんでしょうね。

 秋彦を殺したのは、ご自身ではなかったようですから。

 院長がやったと思って揉めたのか。

 ともかく、昭子さんは日頃の恨みを込めてか、院長を死ぬほど殴打してしまった。

 でも、院長に死なれては、殺人者になってしまうし、院長夫人の座を失ってしまう。

 そう思った昭子さんは、自分にやさしかった秋彦の魂を院長の身体に入れようとしたんでしょう。