真生は完全に弾くことをやめ、坂部を振り返り言った。

「ありがとうございます、先生」

「は?」

「あやうく最後まで弾くとこでしたよ」
と真生が見てはいなかった楽譜を畳もうとすると、坂部は、

「いやいやいやっ。
 なに片付けてんだっ、弾けっ。

 理事長がお見えだぞっ」
と小声で言いながら、入り口の方を振り返る。

 だが、立ち上がった真生は、聴きに来ていた理事長たちに向かい、勝手に終了を告げるように礼をする。

「終わってないだろーっ」
と叫ぶ坂部を振り向き、真生は言った。

「いやいや。
 今はこれでいいんです」

 はあ? とまた坂部は言ったが、理事長は笑っていた。