誰もいなくなったあと、真生は高坂の部屋の赤い扉を開けてみた。

 この時間、高坂がいないことは、高坂の話からわかっていたのだが。

 だが、真生が出たのは礼拝堂の図書室だった。

 図書資質は過去でも現代でも変わりないので、どちらに出たのか判断しかねる場所だ。

 だが、今はわかった。

 こちらに背を向け、机についている男が居たからだ。

 白衣を着た見覚えのない男が簡素なランプスタンドの灯りで、書き物をしている。

 彼からはこちらが見えてはいないようだった。

 もしかしたら、霊ではなく、学園の地下で見た昭子のときと同じに、単に過去の映像が見えているだけかもしれない、と真生は思った。

 自分の姿が見えないのをいいことに、真生は彼の手許を上から覗いてみる。