創立記念祭には、大勢の観客やお偉いさんたちも来る。

 その前でも緊張してやらかしたりしない人材を選んだのではないかと坂部は言うが。

 最初から弾けないのでは、緊張しようがしまいが関係ない気もするのだが。

 そう思いながらも、真生は言った。

「もしかしたら、そうかもれしませんね。
 あのとき、コンクールで椅子が壊れたんですよ」

 は? と坂部がこちらを見た。

「理事長が私の演奏を聴いて決めたというコンクールです。

 弾いてる途中で椅子が落ちたので、少し空気椅子で、それから立って演奏しました」

「……それで優勝できたのか?」

「はい、一音も間違えませんでしたから」

 他にうまい奏者は幾らでも居た。

 恐らく、単に、アクシデントに動じなかった真生に審査員が度肝を抜かれて、選んでくれただけだろう。

「はあ、まあ、そうか。
 じゃあ、十分間でもなんとかなるかもしれんな」
と根拠のないことを坂部は言う。

 まあ、なにかでうっかり飛ばなければ、と真生は思っていた。