ふと気づくと、真生は礼拝堂の扉を開けていた。

 現代のだ。

 ……病棟の扉を開けたはずだったのにな。

 また飛んでしまったようだ。

 高坂さんに怒られるな、と思う。

 訳しかけの文章をそのままにしてきてしまったから。

 まあ、戻れる保証はないから、怒られるかどうかもわからないけど。

 いや、と真生はパイプオルガンに触れながら思う。

 たぶん、私はまた飛ぶはずだ――。

 礼拝堂には、夕暮れの光がステンドクラスから降り注いでいる。

 パイプオルガンのスイッチはもう入っており、楽譜も広げられていた。

 既に弾ける状態――

 いや、もう弾いたあとなのだろうか?

 そっと真生がパイプオルガンに触れたとき、慌てて坂部がやってきた。

「如月っ。
 もうある程度弾けるようになったんだろっ?」
と早口に訊いてくる坂部に、

「いいえ。全然」
と言うと、ノーッと叫び出す外国人のように頭を抱え、坂部はのたうつ。

「なに言ってんだっ。
 お前、今、そこそこ上手く弾いてたろうがっ」

「……そうでしたっけ?」