「追わなくていいのか」
真生が行ってしまったあと、八咫は高坂にそう訊いてきた。
「構わん。
まだ大丈夫だ」
まだな……と思っていると、八咫は、こちらを見、言ってくる。
「俺は最初、お前が殺したのかと思っていたよ」
院長をか? と訊くと、
「違う。
秋彦をだ。
あれを消したのは俺じゃない」
そう言って、八咫も帰っていった。
高坂はひとり、廃病院の部屋に戻る。
蓄音機であのレコードをかけながら呟いた。
「真生。お前は見惚れないよ。
弓削斗真(ゆげ とうま)にはな」
窓の外の道、まだ点消方(てんしょうがた)が灯りをつけに来ていない、ガス燈が見えた。