「子どもだったし。
 俺はその蘇りの瞬間のことはよく覚えていないんだが。

 元気になってしばらくした頃、寝付いていた父親のところに行ったら、頭を撫でられて。

 二度と死ぬなと言われたよ」

 高坂は立ち上がり、足許の絨毯を指差して言う。

「めくってみろ、真生。
 この下に、木の板に染み付いた血の魔法陣がある。

 ……あの儀式には代償が必要なんだ」

 賭けるものは、自分の命――。

 高坂はそう言った。

「俺の父親は命はとりとめたが、体調を崩し、やがて、亡くなった」

 だが、真実はわからない、と高坂は言う。

「本当に俺がその儀式のせいで蘇ったのか。

 単におのれの力で回復したのか。

 それによって、今、置かれている俺の状況も、この病院の立場もずいぶん変わってくるだろうがな」

 そう言いながら、高坂は何故か、おのれの傷ついた手首を見ていた。

 そこからわずかに滲み出している血を眺めているかのように。