「おや、百合子さん、こんにちは」

 朝、真生が高坂の部屋の窓の下を覗くと、百合子がそこにしゃがんでいた。

 彼女の側には何故か、白い花弁に赤い花柱のハイビスカスが繁茂している。

 鮮やかな色のハイビスカスは、色の美しさを追求して交配していく際に、匂いを失っていったそうだが、原種のこの白いハイビスカスは微かな良い香りを宿していた。

 それにしても、なんでこんなところに芽吹いたんだろうな。

 越冬は出来なさそうだが、とそれを見ていると、百合子が、
「こんにちはじゃないわよ」
としゃがんだまま言ってくる。

 真生がまだ白みがかった青い空を見、
「おはようございます、ですかね?」
と首を傾げて言うと、そこじゃないわよっ、と怒鳴ってきた。

「あんた、なに持ってんのって言ってるのよっ」
と百合子は叫ぶ。

 ああ、と真生はおのれの手にあるものを見た。