廃病院に帰った真生は、焼け落ちている壁近くの病室を覗く。
この間は、ベッドにマットレスがあったが、今はない。
高坂の居る朱色の扉は、鉄板がビスで打ち付けてあったりして、頑丈そうなのだが、鍵は開けっ放しだった。
本末転倒。
殺し屋入り放題だな、と思いながら、真生はその扉を開ける。
部屋は暗く、高坂の姿はない。
そっと寝室のドアを開けると、高坂はもうベッドに入り、休んでいた。
なんとなく枕許に立つと、高坂は片目を開け、
「ひっそり立つな。
霊か」
と言ってくる。
「なんで鍵を開けてるんですか」
「いや、こうやって忍んでくる女が居るかと思って」
と言う高坂に、
「寝首をかかれますよ」
と言いながら、この人、熟睡することってないんだろうな、と思っていた。
疲れそうな人生だ、と思ったのだが、こっちが、
「なに疲れてんだ」
と言われてしまう。