手になにか持ってるな。

 ぼんやりしてるけど。

 なんだろうな、と目をこらしているうちに、自分もそのくすんだ白い壁の前に来ていた。

 なんとなく、女が消えた壁を軽くノックしてみたが、その冷たさと硬さが感じられただけだった。

 昔、ここに扉でもあったのかな、と思いながら、真生はそのすぐ南側にある鉄製のドアの前に行く。

 そこが資料室だった。

 地下の空気に冷えたノブに手をかけたとき、あの曲が聞こえた気がした。

『終わりなき世界のレクイエム』

 真生が創立記念祭で弾くことになった曲だ。